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名探偵 縦溝(たてみぞ)の事件簿

第3話 ネコミミ家の一族


 


「今は昼間のはずですよね」

 ボサボサ頭に黒いジャンパーの男がぼそっと呟く。
それもそのはずだろう。
つい10分前にバスから降りた時は、忌々しいほどの日射があったのに、 
今はもう、どういうわけか夜みたいに薄暗い。
 
 バサバサバサ

 大きくて黒い鳥が羽ばたいた。
カラスらしき鳥が、電線の上から睨みつけている。
まるで、新しい獲物を見つけたと、そう、言わんばかりに黒いジャンパーの男を睨む。

 男は、ジッとカラスを見た。
カラスはすぐにそっぽを向き、どこかに羽ばたいて飛んでいった。




「被害者の死亡推定時刻は午前2時ごろ。部屋の中には荒らされた形跡も無く、
物取りの線は薄い」

 パシャッ カメラのフラッシュが焚かれる。

「最後に被害者の姿を見たのはスタッフの 巣他布さん(20男) 午後11時30分。
被害者が寝室に入るところを見ています」

 パシャッ カメラのフラッシュが焚かれる。

「凶器は不明、何か尖った硬い物で後頭部を数回殴打されたことによる頭蓋骨陥没と
脳内出血です」

 ここは、どこか都内にある一軒家。
そこの一室には今、警察関係者や鑑識の人がいっぱいいる。

 この家の主、自称『ネコミミ御主人様にゃりん♪』 本名 イ左藤弓ム 
(いひだりふじ きゅうむ)は、うれっこ萌え漫画家。ネコミミを着けた『小○生』や『○学生』が、
ランドセルを背負ったまま『怪僧 ラス・プーニャン』という長さ1m、直径15cmのモノを
持つ坊主に、それをそれにそれするという一言で言うと世間体が悪い漫画を描いて一山の財産を
築いていた。

「榊原くーん。調査はおわったー?」

 のそり。と、熊のような大男がオカマ声を発しながら現場に入ってきた。
男の名は熊楠。こう見えても歴戦のベテラン警官だ。

「はい。やはり、殺人です。警部」

 そう答えたのは榊原くん。熊楠警部の部下の新人である。

「・・・で、あなたはまた居るんですかー。名探偵」

 熊楠警部はそういうと、事件に関わったとして集められた人々を見た。
そこには、つい昨日、ここに来ていた黒いジャンパーのボサボサ頭の男が居る。
それの名は名探偵縦溝。こう見えても、今までに数々の難事件を解決してきた名探偵として
有名である。
 
「ええ、まぁ」

 名探偵は気恥ずかしそうに頭を掻いた。
そんな名探偵が気に入らないのか、榊原くんはこの男を睨みつけた。

「名探偵さん、申し訳ないが、今回、あんたの出番は無いよ。それとも、今回も、もう事件は
解決したって言うんですか?」

「・・・あれ、分かっちゃいましたか」

 あっさりと、名探偵はそう言った。

「やれやれ、何を言ってるんだか」

「いえ、今回のヤマは既に解決しています。警部、榊原さん」

 名探偵は、自信たっぷりである。

「どういう事だい? 名探偵。いくらあんたでも、昨日の今日で、事件を解決できるとは思えんが」

「いえ、実は、もう分かっているんですよ。警部さん・・・今回のヤマの成り行きを、これから
説明します」

 ゴクッと、誰かが音を鳴らした。

「事件は昨夜の午後1時ごろ、被害者のイ左藤さんはある人物と議論を戦わせていました。
その内容は『ネコミミは巨乳であるべきか、ロリロリであるべきか』というものでした。
イ左藤さんは興奮します。『これからはロリの時代だよ。ツルペタだよ。私は今度の作品で、
乳幼児と中年男性の性愛を描くつもりだ。今年のトレンドは生まれたてだ』と訴えます。
 しかし、これを聞き、犯人は激昂しました。そして、議論の中身はいつのまにかすりかわって
いきました。
『何を馬鹿な! 私は美少年ものこそ、今年のトレンドだと考えている! 
この国に生きる若者たちに、新しい萌え、ネコミミ少年の良さを伝えて、新時代の衆道(ホモの道)
を作り出すべきです!』
 これを聞き、先生も激昂します。
『そんなもの、愚の骨頂だよ! 衆道をどうしてもやりたいというのなら、君が一人でやりたまえ!』
『・・・い、言ったなー! 僕はあなたが・・・!』
『ああ! 憎んでくれて結構だよ!』
 そこで後ろ向きになった先生を見て、憎しみのあまり犯人は近くにあったフィギュアの硬い所で
殴りかかりました」

「それじゃもしかして犯人は・・・!」

 榊原くんが叫んだ。

「おそらくは担当編集です」

 名探偵の断定。
そう、全ての謎は解き明かされた!
そのはずだったのだが・・・。

「よし、とりあえず事情聴集だ、担当編集はいるか!」

 その時、この部屋に若い刑事がドタドタと走りこんできた。

「た、大変です、熊谷さん!」

「なーにー、どうしたっていうのよー」

「た、担当編集が、編集さんが遺体で発見されました!」

「な、なんだってー!?」

 捜査陣に緊張が走る。
この大事件は、まだ始まったばかりだったのだ・・・。


 続く


 

 続き

 小さな女の子のアレにアレをアレするという漫画で一財産を
築き上げたイ左藤弓ムが何者かに殺された。

 この事件の犯人は誰か?!

 しかし、事件の真相は名探偵縦溝が全て目撃していた!
名探偵は隠し撮りしていたハンディカムカメラから殺人犯を割り出して、
犯人が編集担当であることを見抜いた!

 しかし、既に犯人はさらなる何者かに殺されていた!

 事件は迷宮入りするのか?!
果たして真犯人の行方は?!

 今回も名探偵の超絶推理が事件を解決する!




 と、いうわけで、ここはとある湖の岸辺。

湖の奥に、人間の足が水面から突き出ていた。
その二本の足の持ち主こそ、イ左藤弓ムの担当編集だ。

 殺人犯が誰かに殺されるという皮肉な現場に、捜査陣は
ただ息を呑むだけだった・・・。


熊楠警部「やれやれ、こいつはとんでもないことになってきましたな。
     ・・・まさか犯人が殺されるとは」

 縦溝「ええ、ひどいものです・・・。やはり真犯人による口封じが妥当な線
     ですかね」

 熊楠 「そうですねぇ・・・いやいやしかし、これはどうなることか」

 そんな2人の元に駆け寄ってくる男がいた。
新人警察官の榊原くんだ。

榊原くん「警部、昨夜、イ左藤弓ムの家に泊まっていた人間全員を
     大広間に集めておきました」

 熊楠 「おお、榊原くんゴクローさん、それじゃいきますか、名探偵も
     もちろん来るんでしょう?」

 縦溝「ええ」

 イ左藤弓ム邸の大広間には、昨夜この家に泊まっていた4人の人物が
集められていた。

 縦溝「この方たちは?」

榊原くん「はい、事情聴集させてもらうということで、集まってもらいました。
     左から順に紹介します」



 アレクセイ・アレクサンドル 38歳 男

 元KGB工作員、人当たりのいい紳士だが、過去には誘拐殺人容疑で
指名手配されていたこともある。  
現在でもロシア政界の中枢との太いパイプがあるという。
現在はビジネスマンとしてサハリンの油田開発に関わる。 
 

 リンズマン・ゴード 80歳 男

 旧ナチ党保安部の工作員。戦犯容疑で逮捕されていたが、30年前に釈放。
主にロシア方面でのユダヤ人狩りを担当していた。
現在でもネオナチに深い繋がりがあるという。
戦後にナチ関係者を国外に逃した秘密組織「ディーシュピネー(蜘蛛)」の
一員だったという噂もある


 斎木 俊雄 80歳 男

 旧ハルピン特務機関工作員、陸軍中野学校出身者。と、自称している。
帝政ロシア軍の軍人を多数日本国内に匿った組織に属していたという噂もある。
戦中戦後の日本の暗部を知る男として有名。と、ブログで自己紹介している。



 羽田 与作 30歳 男

 小学校教諭、音楽の造詣が深い。
学生時代はラグビー日本代表に選ばれそうになったこともある。



 木下 英俊(ひでとし) 25歳 男

 オタク、イ左藤弓ム先生の熱心なファンとして有名。
インターネットのホームページ上で『ネコミミロリータ至上主義だっぴょん♪』
というコラムを展開しており、1日に15回の更新をする暇人として名高い。 
この作品を書いた頃にはツイッターとか、フェイスブックとか、そういった気の利いたものは
無かったと前もって説明しておく。


榊原くん「職業も背景もばらばらですね・・・」

 熊楠 「っていうか、キャラ濃すぎ」

 縦溝「この部屋の中に居る誰かが真犯人である可能性が高いですね・・・」

榊原くん「・・・?そうかなぁ・・・」

 熊楠 「そんなことよりも、こんな人たちがどうしてこんな家に泊まっていたのか
     気になるのだが」

アレクセイ「そんなことよりーも! いったいどうしたって言うんですーか?
      何があったのでスーか?!」 

榊原くん 「かくかくしかじか」  
 
リンズマン「おしい人を亡くしましたな・・・。彼ほど、ロリに対する博学多才ぶりを
      発揮できる人物はいなかった」

 斎木  「お若いの、よく聞け! 戦後のアメリカの洗脳教育を受けたお前さんがたには
      分からぬじゃろうが・・・あのイ左藤弓ムこそ、古き良き日本を知る真の男であった。
      昔の日本は、ロリ好きがロリのみをロリする、それはそれは品格のある美しい国
      じゃった」

 熊楠  「はぁ・・・」

 斎木  「ああ不甲斐ない! 西洋列強の悪魔パツキン巨乳どもに洗脳されおって!
      西洋人はロリコンと言う日本人の品格の中枢を破壊し、大和民族の
      力の源泉を奪うべく、あの戦争を引き起こす陰謀を企てたんじゃ!」

 熊楠  「榊原くん、鎮静剤」

榊原くん 「はい」

 熊楠  「エイッ」

 斎木  「はぅっきゅ。」

 とりあえず倒れる斎木老。

リンズマン「そうですな、まったく。
      我がナチ党は可愛らしいユ〇〇人少女とか白系ロシア人少女とかを
      かの収容所に監禁して、毎日毎日愛玩・・・」

 熊楠  「榊原くん、鎮静剤もう一本」

榊原くん 「はい」

 熊楠  「エイッ」

リンズマン「はぅっきゅ。」

 とりあえず倒れるリンズマン。

アレクセイ「困った物ーでーす。でも確かに北欧ロリータはサイコーでー・・・」

 熊楠  「榊原くん、鎮静剤もう2、3本」

榊原くん 「はい、はい、はい」

 熊楠  「エイッエイッエイッ」

アレクセイ「はぅっきゅ。」
羽田 与作「はぅっきゅ。」 
木下 英俊「はぅっきゅ。」

 とりあえず倒れるアレクセイ、羽田、木下
 
 熊楠  「さて、それで名探偵、真犯人は誰なのですか?」

 縦溝 「ええ、そうですね。それが少々困ったことになりまして」

 熊楠  「どうかしたんですか?」

 縦溝 「いえね、浮気調査の相手としてイ左藤弓ムは追いかけていたんですが、
      他の人たちは別に調査対象に入っていないんで、全然分かりません」

 榊原くん「・・・」

 縦溝 「いやあ困った困った。殺人事件なんて追いかけたこと無いんで、どうしたら
      いいものか」

 熊楠  「・・・」

 縦溝 「それでイ左藤弓ムの浮気相手についてですが・・・」

 熊楠  「榊原くーん」

 榊原くん「はい」

 熊楠  「名探偵も重要参考人として押さえといて、事情は署で聞くから」

 縦溝 「いやあ、僕、そろそろ依頼人の所に行って、調査報告をしなくちゃいけないの
     ですが・・・」

 熊楠  「なんなら盗聴、盗撮で逮捕してもいいんですよ? 名探偵」

 縦溝 「・・・すんません」   
 

 しばらくして・・・。


 熊楠  「ところで犯人は結局誰だったんだ?」

 榊原くん「鑑識の調査結果でました、凶器は出刃包丁、犯人は木下 英俊ですね、さっき自白
      しましたとおり、包丁が湖から発見されました」

 熊楠  「そう・・・自白か、つまんないの」


 第3話 完



 
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