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ペティグリード ジュブナイルズ

9章 日常の中へ

 



 
 

 「元之丞ちゃーん。もういい加減暑いのはいやだねぇ」
 
  私はその日、ボス、式部くんと一緒に駅前の商店街に出来た新しいカキ氷屋にきていた。
 私はイチゴ、ボスは抹茶金時、式部くんはブルーハワイを食べている。
 
 「暑さ寒さも彼岸まで、ですよボス」
 
 「古い言葉知ってるねぇ元之丞ちゃん。でもさ、彼岸っていつだっけ?」
 
 「いつでしたかねぇ」
 
 「あたし、今度は小豆食べたいです、小豆」
 
  なぜだろう、式部くんはいも元気がいい。
 
 「ねぇ、元之丞ちゃん」
 
 「はい」
 
 「あの子たち、今、どうしているかな」
 
 「元気にやってますよきっと」
 
 「そ、おっと、噂をすればなんとやら」
 
  ボスが右手のスプーンで、歩道の向こうを示す。
 そちらを見ると、例の3人の少年と、安曇凛子がいた。
 
 「凛子、凛子! オレ、メロン味だからな!」
 
 「僕は青りんごがいいです」
 
 「うーん、ボクはどうしようかな」
 
 「はいはい、もうなんでこのあたしが子供の買い食いの面倒を見なきゃいけないのかしら。
 っていうか、青りんごってあるの?」
 
  4人はカキ氷屋の店主に、注文の品を告げる。
 青りんごはあるらしい。最近の流行なのだろうか。
 
 「へっへっへっーいただきまーす」
 
  並木少年がうまそうに氷をほおばる。
 他の2人も、それぞれ毒々しいほどの原色に染まった氷を口に運んでいく。
 
 「あたしは柚子にしましょうか、・・・あら、ここいいですか?」
 
  安曇女史がボスのに声をかけた。
 ベンチの空きが他にないらしい。
 
 「どうぞどうぞ」
 
  ボスがやわらかい笑みを浮かべ、安曇女史をベンチに座らせた。
 残りの少年3人組は、安曇女史の隣に座る。
 ちょうど彼らと向かい合う位置になってしまい、私は思わず彼らの顔を眺めた。
 
  こんなに小さい子供だっただろうか?
 改めて、彼らが子供だったことに気づかされる。
 手足がスラリと伸びてきて、そろそろ大人になろうとしている体だが、
 まだまだ小さな子供の要素の方が強い。
 
 「うん? どうかしたおじさん?」
 
  野々村少年が、私の方を見て聞いてくる。
 
 「いや、すまないね。青りんご味なんてあったのかと思ってね。
 それとキミ、すまないが私のことはせめてお兄さんと呼んでくれないか、まだまだおじさんと
 言われたくはないのだよ」
 
 「あはは、ごめんなさい」
 
 「おいアスカ、あんまり知らない人と口聞くなよ?」
 
  並木少年が横槍を入れてくる。
 それを、どうしたわけか凛子さんが抑えた。
 
 「まあまあ、この人たちは大丈夫よ。どこからどう見ても、暇をもてあました
 不良公務員にしか見えないし、きっと安全な人たちよ」
 
 「うん? そうかな」
 
  並木少年は納得できないようだ。
 
 「あたし、次は寒天氷が食べたいです。元之丞さんも一緒にどうですか?」
 
  式部くんはお代わり3杯目だ、食べ過ぎではなかろうか。
 
 「え? 今日はボスがいてくれるから、奢ってくれるんでしょう?
 いいじゃないですか、元之丞さんも次は一番高い練乳のやつ、頼みましょうよ」
 
 「お、そうか! そういや、今日は凛子が払ってくれるんだもんな!」
 
  並木少年も何かを思い立ったらしい。
 
 「それじゃセアンもアスカもとっとと食っちまえよ! オレ前からここの
 バナナフラッペ、食ってみたかったんだ!」
 
  私は式部くんに連れられ席を立ち、そして子供たちはそれぞれの  
 食べたい物を口走りながらカキ氷屋の店先と向かった。
 
 
 
 
 
 「元気な子たちだ」
 
 「ええそうでしょう? あたしの大切な子供たちなんです」
 
 「まっすぐに育っています。やっぱり育ての親が大切なんでしょうかねぇ。
 安曇凛子さん」
 
 「ええもちろん、あたしが育てているのですもの、世間一般の頭パー男のようになるはずが無いわ。
 ねぇ、沈まずの天城宗司さん」
 
 「それ、私のこと?」
 
 「もう、とぼける必要は無いですよ」
 
 「ばれてましたか、あはは、参りました」
 
 「あたしも参りました。まさかかの有名なエージェント、コードネーム31、人形遣いの上司に
 お会いできるなんて、夢にも思っていませんでした」
 
 「あら、あらあらー。その言い方だと私より、あの方が有名なのかね」
 
 「ふふ、そんなことあるわけないでしょう? 自分でもわかっているクセに」
 
 「ばれてましたか、あはは、参りました」
 
 「ええ。そう言えば、今日はお礼に来たんです。
 先日の件では、うちの子たちがお世話になりました。
 あなたからの連絡が入らなかったら、もう少しであたしたち、動けなくなるところでした」
 
 「礼には及びませんよ」
 
 「ええ、本当に礼など必要ないのでしょうね。あなたが事件を連絡してくれたお陰で、
 あたしは手札の多くをあなたの目の前に晒さなければならないはめになってしまいました」
 
 「あらあら、ばれちゃったのね」
 
 「バレバレよ、してやられたわ。だからあたしは1つぐらいは戦果が欲しいの。
 ねぇ、あの2人のうち、どっちが鳶丸くんの中身だったのかしら」
 
 「ああ、あれね、あれね、あの元之丞ちゃんの方なの、彼、すごいのよああ見えて」
 
 「・・・だめねどうも、あたしはこういう腹芸は苦手みたい。あなたの心のうちが読めないわ。
 いっそ黙りこくってくれたらいいのに」
 
 「ははは、ごめんなさいね、いろんな人に鍛えられちゃったもんで。
 でも、わからないことはこっちも多いですよ安曇女子。
 特に、あなたのネットワークね、アレなかなか尻尾が掴めない」
 
 「秘密がいっぱいある女は、ミステリアスよね」
 
 「せめて、2つだね、聞かせて欲しいことがあるのだけど」
 
 「なに? まるで口説かれているような気分だわ」
 
 「1つ、キミらの目的は」
 
 「世の中にはね、天城さん。
 これほど救いようの無い悪人もいるのかと、呆れるような人もいる。
 でも、それと同じ数だけ、なんでこんなに善意の塊なんだろう、というような人間もいる。
 あたしはそういう善意の人間を見つけては、他の善意の人間と引き合わせるの。
 そして彼らが発揮したいと思う善意を、形にするのがあたしの仕事なの。
 その善意が形になったものの1つが、あの子達の現在を取り巻く環境の1つなのよ」
 
 「それは、いい仕事ですね」
 
 「ええ、やりがいがあって楽しいわ」
 
 「それではもう1つ、現状を維持しようと思っているのか」
 
 「子供には子供の世界が必要よ、小学校に行って、子供の間にしか出来ない体験をいっぱいして、
 そうやってかつての子供たちも、大人になっていったのではなくて?」
 
 「今回みたいな事件が、また起こるかもしれませんよ」
 
 「それはわかっています」
 
 「ああいう特別な子供たちを、普通の子供たちと一緒にしておいて、普通の子たちが
 危険にさらされる可能性がありますよ」
 
 「危険は承知です」
 
 「ほう」
 
 「簡単な話だわ。どんな苦難や危険があの子たちやその周辺に表れたとしても、
 子供たちの周囲にいる大人が、それから守ってあげれば済むことなのよ。
 天城さん、あなたはどう考えます?」
 
 「そりゃあそうだ。そうに違いない。ははは・・・言われてみれば、当たり前ですなぁ」
 
 
 
 
 
 
  式部くんは子供たちに人気があるようだ。
 しゃがみ込み、子供の視線になって相手を見る式部くんは、そのエプロンドレスも相まって、
 近所のお姉さんか、新米保母さんのように見える。
 
 「ねえ、式部ねぇちゃん」
 
  並木少年が式部くんに問いかけた。
 
 「オレらの大事な友達がさ、なんて言ったけ」
 
 「突発性意識障害症候群だよ」
 
 「そうそう、そのセアンの言うそれ、友達がその病気になったらしいんだ、
 でもさ、オレたち、その病気のこと調べてもよくわかんなくて、なあねぇちゃん知ってる?
 その病気のやつ、治ってさ、また学校に来ると思う?」
 
 「ええ、その病気なら大丈夫よ」
 
  式部くんがうけあう。
 
 「きっと大丈夫、また会えるわ」
 
  この少年たちは、施設の格納庫で眠るように収納されている鳶丸を見たらどう思うだろう。
 きっと並木少年は、鳶丸を悪いやつらから助けるぞと息巻くだろう。 
 佐東少年は安曇女史と相談し、素晴らしい救出作戦を思いつくに違いない。
 そして野々村少年は、慌てふためきつつも友人のために勇気を振り絞って戦うだろう。
 
  それは、なかなか楽しそうな話である。
 いつかまた、鳶丸として彼らと冒険をしたいものだと、私は半ば真剣に考え始めていた。
 
 
 
 
 

 
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