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ペティグリード ジュブナイルズ

6章 インターミッション

 



  

  一方その頃。
 
 「天城くん、私だ、電話に出たまえ」
 
  私、天城宗司の元にその電話がかかってきたのはお昼過ぎのことだった。
 出前でとった蕎麦のドンブリが、まだそこに転がっている。
 私は書類の山を掻き分け、受話器を取った。
 
 「はいはい、どちらさま」
 
  どこの誰かはわかっていた。かつてはわたしと共に仕事をした仲間である。
 那賀川さんという人だが、この際名前はどうでもいい。
 
 「どちらさまではない、わかっているのだろう。那賀川だ。
 君に頼まれていくつかの情報を調べておいた」
 
 「ん、どうも、それで? 今コレで話していいの?」
 
 「問題ない、というか、すでに問題はそういう状態ではない。
 まずは緊急を要する件からだ。
 先日、キミの部下が手に入れた映像にあったアルザゥク使用者、いわゆるキャバリアらしき男に
 ついてだ。
 あの男、前から公安がマークしていた防衛装備品の調達会社の人間だ。
 立場は課長だが、実質的に装備品を海外に流出させるビジネスを統括していた男だ。
 すでに逮捕された奴らの元部下からの情報だが、この会社の裏の仕事をしていた連中は、
 全員アルザゥクによる強化を自分に行っていた模様だ」
 
 「全員? そりゃまた大変なことをしてくれました」
 
 「キミは少しは緊張感を持ちたまえ、強化された人間はおよそ50名、軍事用に調整を受けた
 キャバリアではないにしても、その能力は極めて驚異的なものだ。
 まったく、たいしたジャパニーズビジネスマンだ。
 彼らは新しい顧客を開拓するために、アルザゥクを売り込みたいのだよ。
 自分たちを体験者、実践者として広告媒体と化し、世界中の裏社会に強化人間を
 売りつけようという魂胆だ。
 実はすでに、私のところの近くで事件が起こされた
 他にも表ざたにならないところでは、ずいぶん事件が起こっているらしい」
 
  この人は警察の特殊部隊に近いところで仕事をしている。
 つまり、犯人グループは司法機関のエリート部隊を襲撃したということか。
 
 「キャバリアってやつな、アレは怪物だよ。人間ではない。
 事件の記録映像を見た上で専門家が言うには、アレ1人で、よく訓練された隊員3名分に
 匹敵する能力を保有しているらしい。
 口惜しいことに、こちらの怪我人も損害も、全てはやつらの広告戦略の一環でしかないということ
 だよ。奴らの策に乗るわけにはいかん、この件は内部でも外には漏らさないことになった」
 
 「そんな大事なことを、わざわざどうも」
 
 「あれだけのことになれば、隠し通せるものではないよ。いずれは外部に流出する事件だ。
 問題ない。それよりは次の奴らの行動が問題だ、奴らに取引を持ちかけている組織や人間が
 相当いるらしい。簡単に言うと、奴らは商品の在庫が足りない状況になっているらしい」
 
  在庫、それはつまり武器の在庫っていうことだ。
 
 「奴らは日本国内にあるアルザゥクの在庫を全て仕入れたいらしい。
 金で済むものなら金で、金で買えないなら、他のやり方での仕入れになるとのことだ」
 
 「穏やかじゃないねぇー」
 
 「そういうことだ。これで前の借りは帳消しにしといてくれたまえ、あともう1つ、安曇凛子
 という女性についてだが」
 
 「凛子ちゃんね、どう? 彼女可愛いでしょ? 息子さんのお嫁さんにどう?」
 
 「残念だが私はそういうジョークを好まない。それに、正体不明の嫁なんぞ、こちらでお断りだ」
 
 「那賀川さん、それって」
 
 「天城くん、あの安曇凛子という女な、アレはどうにもわからんよ。
 あの女についてはこちらではこれ以上調べられん。すまんが他の友人に頼んでくれ」
 
 

 
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