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マンハンター ジャコウアゲハの夢

1章 4月27日


 

 
  この作品は、フィクションです。
 作品内に登場する全ての事象は、実在のものとは一切関係ありません。
 
 
 



 
  4月27日 木曜日
 
 
  丘の上の白樺の林には、綺麗なお屋敷があって、そこには妖精の女の子が住んでいる。
 それは幼い頃に、誰かが話していた噂だった。
 
  それは、白樺の樹の妖精らしい。
 髪も肌も、何もかも白い女の子で、月夜の晩にだけ現れるのだそうだ。
 
  今思うと、他愛の無い噂。
  おそらくは大人が話していた何かを、誰かが聞き間違えたことなのだろう。
 
  でも、ある日、僕を含めた子供たちの何人かが、その妖精とやらを探しに行こうということに
  なった。
 皆が、妖精を見つけてどうしたかったのかは、良く分からない。
 クラスの誰かが、「捕まえて写真を撮って、ネットにさらそう」とか、そういう風に張り切って
 いたような気がする。
 
 
  小学校から帰ってきて、自転車に乗って僕らはいざ、山へ急ぐ。
 
  何人かが来ていなかったけど、僕らは自転車が置いてあれば、
 僕らが入った林の位置はすぐに分かるだろうと考え、その白樺の林に入ることにした。
 
  記憶がぼやけていてハッキリしないのだが、僕はその日は夕焼けが無かったと思う。
 
  あっという間に辺りは暗くなり、視界は闇に包まれ始めた。
 草の藪をこいだり、背の低い木を曲げてよけたりしながら、僕たちは進んだ。
 
  少しして、友達の内の2人が、「帰る」と言い出した。
 いろいろと言い訳をしていたが、きっと暗くて怖くなったのだろう。
 僕らはその子たちを先に帰すことにした。
 
  もう少しして、友達の内の3人が、「帰る」と言い出した。
 いろいろと言い訳していたが、きっとあまりにも林の奥に入ってしまい怖くなったのだろう。
 僕らはその子たちを先に帰すことにした。
 
  もう少しして、残った友達の2人が、「帰る」と言い出した。
 いろいろと言い訳していたが、きっとあまりにも時間が遅くなってしまい怖くなったのだろう。
 僕はその子たちと別れた。
 
  僕は、その妖精の女の子を探すつもりだった。
 
  探してどうしたかったのか、今は分かる。
 
  幼い頃の僕は、白樺の樹の妖精を見つけ、話をしたり、一緒に遊んだりしたかったんだと思う。
 とは言っても、別にそう真剣に考えていたわけじゃない。
 妖精がいないってことは分かってた。それは分かってた。でも探したかったのだ。
 探しもせずに、そんな面白そうなものを諦めるのは嫌だったのだ。
 
  その時、僕の耳元で、何か虫が飛ぶ音がした。
 虫は僕の胸の、心臓の位置に止まった。
 
  それは蝶だった。
 
  綺麗な色の蝶だった。
 
  僕はその蝶を捕まえて、何かに入れた。
  (何にしまったのかは覚えていない。帽子だったかもしれない)
 
  そしてすぐのことだった。
 
  僕は林の少し開けている場所で、妖精の女の子を見つけた。
 
  妖精は本当に真っ白だった。髪も肌も全て、
 いや、正直に言うと、たぶん白という推測。・・・と言うのも、夜だったので、実際には青白く
  光り輝いて見えたのだ。
 
 「・・・ねぇ、キミ」
 
  僕は声をかけた。距離にして3mくらいは離れていたと思う。
 
 「キミ、何してるの?」
 
  妖精の女の子は一瞬、ビックリした様子であったが、僕の姿を見つけると
 
 「散歩よ」
 
  と、答えた。
 
 「あなた、怪我してる」
 
  妖精の女の子は僕の手を見ていた。さっき藪をこいだ時に、手を傷つけたようだった。
 
 「見てあげる」
 
  妖精の女の子は僕に近づき、僕の薬指だったかを、口に含んだ。
 
 「こういう傷口から、ばい菌が入るって、看護士さんが言ってた」
 
  今思うと、看護士だのばい菌だのという言葉が出てくるのは、妖精にしては変だと思う。
 僕の指を舐めた後、妖精は
 
 「・・・すごくにがい、何かついてるの?」
 
  と聞いた。
 
 「いや、そういうことは無いけど・・・ねぇ、キミはいつもここにいるの?」
 
  と、僕が尋ねる。
 
 「ううん、いつもはいないよ、・・・あ、そろそろいかなきゃ、わたし、叱られる・・・
 それじゃね、ばいばい」
 
  そう言うと、彼女は林の奥の方に行った。
 
 
  僕はすぐに、今まで来た道を走って戻った。
 友達を追いかけて捕まえて、そいつらにも妖精を見せようと考えたのだ。
 1人でただ「見た」と言い張ったところで、ウソツキ呼ばわりされることは分かっていた。
 
  しばらく走りに走った。
 走りに走ったところで、林から出た道路の上、自転車のあるところまで来てしまった。
 案外、歩いた距離は短かった。
 しばらく辺りを見渡したが、友達は1人も見つからず、僕は急に寂しくなって、急いで家に帰る
 ことにした。
 
  帰ったら、ひどく叱られた。時間は、午後の9時を回っていた。
 
  結局、この時の顛末は、まだ誰にも語ってはいない。
 収穫は1匹の蝶だけ。とりあえず、この蝶は標本みたいにして、しまっておいた。
 
  あとで調べたところ、この蝶はジャコウアゲハという蝶らしい。
 
  
 
 ・・・と言うことを、高校の同級生の水岡聡子に喋った。
 と言うか、喋らされた。「あんた、小学校のときに妖精を探しに行ったんだって? 
 それで、なんか見た?」
 とかなんとか。
 
  話し終わったあと、大笑いされた。
 
  まぁ、気持ちは分からなくもないが、あそこまで大笑いすることは無いだろう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 「間宮~ 間宮周平(まみや しゅうへい)。
 それに 水岡~ 水岡聡子(みずおか さとこ)。
 おまえら今日の日直だったな。悪いが、ちょっと荷物持ちをしてはくれんか」
 
  放課後、水岡に妖精探しの顛末を白状させられた後、
 そろそろ校舎から出ようとする辺りで、担任の新沼先生に呼び止められた。
 僕の隣にいる水岡聡子が
 『・・・なんで、あんた、ここにいるのよ、私、巻き添え食らったじゃない!』
 っていう感じの眼光を僕に飛ばしている。
  
  とりあえず、このとてつもない冤罪を無視して新沼先生の話を聞く。
 
 「なんですか、先生?」
 
 「おお、すまんが、あそこにあるコピー紙の束を職員室の横にある部屋に
 運び込んでおいてくれんか、オレな、用事があって、もう行かなきゃならないんだわ。
 それじゃ頼む。・・・後で内申点を良くしといてやるから・・・ああ、そうそう、それが終わっ
 たら寄り道せんで急いで帰れよ、そんじゃ」
 
  『はい、分かりました』を答える間もなく、新沼先生は外に行ってしまった。
 
 
  しばらくして、僕はコピー紙の束を2つずつ持って、校舎2階の職員室と来客用玄関の辺りを
 往復する。
 その横に、水岡がいる。彼女は何も持っていない。
 『持ちはしないけど、付き合ってあげる』と言われた。
 
 「ねぇ、間宮、知ってる? 変わった人が町に引っ越してきたって話」
 
  コピー紙の束が半分ほどになった頃、水岡が切り出した。
 手持ちぶさたからだろうか、水岡が一方的に喋る。
 
 「何? たぶん、知らない」
 
 「あのさ、学校から離れたところに、白樺の木がいっぱい生えてる丘があるでしょ、
 そこにさ、怪しい雰囲気の洋館が建ってるの、知ってるでしょ?」
 
 「・・・そりゃね。僕が妖精探しに行ったところですから」
 
 「あーもう! ごめんって謝ったでしょ。いちいち混ぜ返さないの。
 それでさ、あそこに、女の子が2人、引っ越して来たんだって。親とかさ、そういうのいない
 みたい。良くわかんないけど、なんでも外人さんの姉妹らしいよ?」
 
 「ふーん」
 
 「何、その『ふーん』。興味無いの? 
 あのさそれでね、なんでも、かなりいいところのお嬢様らしくてそれもね、その女の子の1人は、
『アルピノ』なんだって」
 
 「『アルピノ』?」
 
 「そう、白子(しらこ)とも言うわね。生まれつき色素を待たなくて、髪も肌も真っ白なのよ。
 なんかさ、まるでなにかの物語の始まりみたいじゃない? 白樺の丘の洋館で始まる姉妹の物語。
 その内の1人はアルピノだというおまけ付き」
 
 「物語、アルピノ、ねぇ・・・それで、僕の話を聞きたかったわけ?」
 
  水岡は「うんうん」とうなづく。
 
  僕は言った。
 
 「それでどんな物語さ、ラブロマンス?」
 
 「ククッ、あんたやっぱりロマンチストねー。あたしはこの設定なら、ホラー映画しか思いつか
 ないけどね」
 
   水岡は意地の悪い笑みを浮かべた。
 
 「ホラー映画ねぇ、それ、失礼だよ」
 
  そこで僕らは5回目の荷物搬入作業を終えた。埃臭い部屋に ドスッ  とコピー紙の束を置く。
 ちょうどその時、僕がコピー紙の束を置いたのと同じタイミングで、コピー機がピピーピピーと
 警告音を発し始めた。
 
 「コピー紙の置き場が悪いと言っているのかな?」
 
 「んなわきゃないでしょ」
 
  水岡が突っ込む。
 
 「ふーむ」
 
  気になったので(と言うか、ピピーピピーとうるさかったので音を止めたくて)
 コピー機に近づいて、様子を見た。
 
  そこで僕はコピー機が大量に吐き出していたプリントの束を手に取った。
 
 「・・・マンハンター事件に関する説明・・・」
 
  そのプリントの束、いや、書類はある猟奇殺人に関する資料であった。
 
 
 
 
 
 
 
 
  2時間後 とある国道上
 
 
 
 「えーと、道はこっちで良いんだったかな」
 
  ウィンカーを左に上げたのを、右に直した。
 新沼康人(にいぬま やすひと)38歳。
 車のハンドルを握るのは、久しぶりのことだったかもしれない。
 まして、他人を助手席に乗せるのは本当に久しぶりだった。
 
 「すみません、新沼先生。・・・あっと・・・看板が見えましたよ。
 やっぱりこの道でいいみたいです。国道をまっすぐ走っていけば、木鹿毛(このかげ)町ですね」
 
  車の助手席に乗っているのは、ほっそりとした風貌を持つ若い男だ。
 名前は 枕下空重 (まくらした からしげ)。変わった名前の25歳の若き教職員だ。
 今年、木鹿毛高校に赴任するはずだった女の先生の代わりに来ることになった人だ。
 
  新沼のオートマ車はグネグネと曲がりくねった山道を走り続ける。
 
 「本当に、手間をかけてすみません、新沼先生。バスが1日に2本しかないとは
 思っていなかったものですから」
 
 「はははっ、いやいや、ようは田舎だと言うことですから、赴任したての人はこの田舎暮らし
 に慣れるのに、相当な時間がかかります」
 
 「でも、助かりました。今日中には木鹿毛町に着いておきたかったものですから・・・
 電話をして、すぐに新沼先生が車で駆けつけてくれると聞いたときには、地獄に仏と
 思いましたよ」
 
  枕下は子供っぽい笑みを浮かべた。人懐っこいところがあるなと新沼は思った。
 
 「ま、麓の町には宿はありませんしな、下手すりゃ、野宿でしたな」
 
 「はははは、前のアパートからは退去したばかりでしたし、そのままいくと野宿でした」
 
 「うんうん、はっはっはっ! よかった! この春まだ浅い時期に野宿では、風邪を引いてし
 まいますよ!」
 
 「ええ、本当にそうです」
 
 「それに・・・」
 
  そこで新沼は口よどんだ。何か、言いづらいことでもあるような感じだ。
 
 「あのマンハンターとかいうトチ狂った犯罪者にでも見つかったら、えらい事ですからな」
 
  そこで、車内には、少しの間沈黙が残った。
 
  沈黙を破ったのは枕下だった。
 
 「ああ、例の2年前まではさかんに報道されていた猟奇殺人者ですね・・・なんでも人を殺して
 食べるとか・・・
 恐ろしい話です。去年は、私のいた学校でも、集団下校とか、保護者の説明会とか、随分やりま
 した。
 でも、新沼先生も心配性ですね、あの事件はここ1年は起きていないじゃないですか。
 もしかしたら、もう起こらないのではないのですか?」
 
 「そうだといいんですがね」
 
  そこで新沼は、もう1度言いよどんだ。 何か、タブーでも口にするかのような面持ちだ。
 
 「出たんですよ、また、マンハンター。あの、人喰いが」
 
   そこで、新沼は枕下にコピー紙で作られた書類を渡した。
 
 
 
 
 
  『マンハンターに関する説明と、マンハンター事件の概要』
 
 
  マンハンターとは、シリアルキラー(快楽殺人者)の一種である。
 
  日本では、2014年 2月 13日に最初の犠牲者が発見されてから、
 12年間の間に、およそ130万人以上の人間が、この恐るべき殺人鬼達によって殺されていると
 考えられる。
 
  警察は現在までに、26000名のマンハンターを逮捕している。
 しかし、これだけの人数のマンハンターを逮捕、捕縛しても、事件そのものを沈静化することは
 できなかった。
 関係機関等から上がってきているデーターから推測するにしても、この逮捕者たちは氷山の一角
 に過ぎず、相当数のマンハンターが、現在も暗躍していると考えられる。
 
  また、ひとくちにマンハンターと言っても、マンハンター達は性別、思想、職業、年齢、
 生い立ちなど、その社会的背景、及び、肉体的特徴は千差万別であり、マンハンター達の共通項は、
 1つしか無いと言われている。
 その共通項とは「犯人は人間である」ということだけである。
 
  現在、日本国内では年間に多数の人々が、マンハンターによって殺害されていると考えられて
 いる。
 だが、その犠牲者の実数の把握は、極めて困難にして曖昧なものになるざるを得ない。
 マンハンターの犯行は、極めて巧妙かつ計画的であり、証拠となるような物件を一切残さない
 ケースも多く、当初はマスコミ関係から『神隠し』とも呼ばれるほどであった。
  しかし実際のところは、マンハンターはその名の通り人を狩る怪物的人間であり、その主たる
 目的は、人肉の捕食にある。
 その為、死体が出るケースはほとんどなく、出ないケース・・・つまり『食べ残しが無い』ケース
 が、圧倒的多数であるというのが、実態であると考えられている。
 
 
  このマンハンター事件において、深刻な問題は2点ある。
 
  1つ目は、社会不安が広がることである。
 実際に2016年の関東地方での大規模な『12月マンハンター事件』の際には、日本全国で
 数ヶ月のうちに100万人以上の行方不明者と1000体以上の食べ残しの遺体が見つかり、
 多数の住人が避難する騒ぎとなった。
 
  もう1つの問題は、主に捕食される対象が、若年の女性や子供である。という点が挙げられる。 
 この為、これから数年先の日本国内の人口は、予想されていた数字をはるかに上回るペースで
 減少していくと考えて間違いないだろう。
 
  実際問題として、先進国はもとより、最近では発展途上国にすらこの種の事件が増加しており、
 一部の学者の間では人類は、あと5世代ほどで食い尽くされるのではないか。とも言われている。
 
  しかし、マンハンター事件は、一定以上の損害が出始めると、急激に犠牲者の数が減っていく
 という特徴も持っており、今もってなお、真相は深い霧の向こうにあるばかりである。 
 
 
  現在、事件そのものは2024年に1度、パタリと途絶えたが、昨今また出現し始めている。
 
  マンハンター事件の発生件数には波のようなものがあり、
 急激に増えたり、急激に減ったりすることが多い。
 今回、関係各機関は、一層力を終結して、事件の解決、あるいは犠牲者の数を
 出来うる限りゼロに近づけることが求められている。
 
 
 
  昨今の事件の経過
 
 
 *2024年 5月頃 マンハンター事件の犠牲者が確認されなくなる。
 
 *2025年 2月 13日 第1の犠牲者 Aさん が遺体で発見される。
 Aさんの遺体は、『食べようとして解体された痕がある』ということで『マンハンター事件』
 と断定される。
 
 *2025年 3月 25日 第2の犠牲者 Bさん が遺体で発見される。
 遺体の被害の状況は同様。この頃から、警察は同一犯の手による連続マンハンター事件と
 断定、捜査体制を強化する。
 
 *2025年 5月 2日 第3の犠牲者 Cさん が遺体で発見される。
 
 *2025年 6月 1日 第4、第5の犠牲者 Dさん と Eさんが 遺体で発見される。
 この頃、警視庁は大捜査網を展開、一時は数人の容疑者を検挙するものの、全員、別事件の
 犯人であることが判明。
 
 *2025年 6月 10日 第6、第7、第8の犠牲者 Fさん と Gさん と 
 Hちゃん が遺体で発見される。
 3人は一家であった。
 
 *2025年 6月 25日  第9の犠牲者 Iさん が遺体で発見される。Iさんは学生
 であり、このことが次の事件へとつながる。
 
 *2025年 7月 1日 第10、第11の犠牲者 Jさん と Kさん が遺体で発見
 される。
 Kさんは教職員であり、Iさんの通っていた学校の教職員であった。
 警戒中に同じ学校のJさんが拉致されそうになっている所を目撃、携帯電話で通報した直後
 に犯人に襲われたらしい。
 後に2人は遺体で発見されることになる。
 
 *2025年 7月 6日 第12、第13、第14、第15の犠牲者 Lさん Mちゃん 
 Nちゃん Oさん が遺体で発見される。
 これまた一家であった。
 
 *2026年 4月 26日 第16の犠牲者 Pさん が遺体で発見される。  
 半年近くにわたって事件が再発していなかったところに発生した事件。
 別の犯人の犯行かとも推測されたが、警察のその後の調べで同一犯による
 犯行であると確認する。
  
 
  
  
 
 
  しばらく車内には無言が続き、自動車のエンジン音以外、まったく聞こえなくなった。
 
 「なるほど」
 
  枕下が話す。
 
 「新沼先生が私を迎えに来たのは・・・この書類に一刻も早く目を通させようという、
 そういうことですか?」
 
 「はいそういうことです。枕下先生は話が早くていい」
 
  新沼はカッカッカッと乾いた笑いをする。
 
 「警察の発表は、社会の混乱を避ける為に、関係各所に情報が伝達された後に行われることに
 なりました。なんでもマスコミ関係も、今頃は明日の朝刊やら朝のニュースやらの準備で
 大賑わいだそうです。私も急いで父母向けの説明の書類等を作らなきゃならなくなりましてな、
 枕下先生を迎えに行く前まで残り少なくなっていくコピー紙との睨めっこをしておったところ
 です」
 
 「なるほど、それは大変だったでしょう。どうです? 私も行って手伝いましょうか?」
 
 「ああどうも、しかし、もう大丈夫です。紙さえ来れば、後は機械が自動的にやってくれます
 からな」
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 「マンハンター事件。か」
 
  コピー紙の束を運び終えた後、僕と水岡は急いで帰宅した。
 あれこれといろいろと話したような気はするが、あまり覚えてはいない。
 
  僕は家に帰ってきてリビングの主電源を入れた。
 僕はこの家で1人暮らしをしている。
 母は、僕を産んだ後にすぐに亡くなったとかで、父が1人で僕の面倒を見ていた。
 
  父は3年前から、海外に出てしたい仕事があると、常日頃から言っていた。
 しかし、あのマンハンター事件の為に、僕を1人にする事ができず、日本を出られないで
 いたのだ。
 そんな父も、去年から海外に出て行って仕事をしている。
 マンハンター事件に一区切りが付いたと感じた僕が、父の背中を軽く背中を押したところ、
 父は猛烈な勢いで日本から出て行ってしまった。 
 
  自分で作っておいた夕飯を食べたあと、自分の部屋に入って、パソコンの電源を入れた。
 コンピューターはまるで生き物のように、ファンで空気を吸い込み始める。
 モニターにOSの名前と、現在の日時などが表示される。 
 
 
  日本国 国内          内部時計調整
 
  西暦2026年  4月27日  午後8時15分
  
  ユーザー    間宮 周平 
   
 
 
  ピッピッ、カチカチ。
 
  この事件。
 連続死体損壊殺人事件・・・一般にはマンハンター事件と呼ばれている。
 テレビでははっきりしたことは言わなかったが、どうも、この犯人、人の肉を喰うという
 異常者であるらしい。
  2年前までは随分と、ワイドショーやインターネットの掲示板を騒がせたもので、
 学校でも保護者に説明会を開いたり、警察の人を呼んで講習会を開いたりと、何かと
 大変であったのを覚えている。
   
  だが、こんな殺人鬼、この田舎にまでやってくるものか。
  無差別殺人を犯すというのなら、わざわざ田舎に来ないで
  都会でやっていた方がいいだろう。
  それが僕の考えだ。
 
  しかし、そんな各種イベントも、ここ最近はご無沙汰になっていた。まぁ、事件が起こら
 なくなったのではどうしようもない。
 
  僕は、昔に事件で賑わったインターネットの掲示板が気になり、久しぶりにアクセスして
 みることにした。
 もしかしたら、いち早く事件の発生を嗅ぎつけた人が、何か書き込みをしているかもしれない。
  
  ・・・5分後・・・
 
  だめだ、最後の書き込みが3ヶ月も前だ。
 これからみんな、いろいろと書き込むのだろうか・・・いや、それとも別の掲示板が出来て、
 そこに行ったのか・・・。
 
  ものは試しと、僕はマンハンター事件についての新しい書き込みがありそうなホームページ
 を、いろいろと検索してみることにした。
 新しい情報が180件ほどがヒットする。とりあえず、見ていくことにする。
 そこで、僕はあまりにも趣味が悪いホームページを見つけた。
 
 
 
  『*マンハンター様支援係ホームページ*』
 
 『マンハンターに殺させたい奴ら』
 
 『マンハンター様に、殺して欲しい人間を募集しています』
 
 『マンハンターさん、こんな人間、おいしそうでしょ? 喰って写真をみんなに見せて!』  
 
 
  と、こんな感じの文章が躍っている。
 ときおり、ネット上にはこういうしょうがないモノがあるのは確かだ。
 見ていてもろくな物は無いので、僕はすぐにでもコンピューターのアクセスを切ろうと思った。
 
  ・・・でも、切れなかった。
 そこに、見慣れた町の地名が載っていたからだ。
 
 『木鹿毛町にて、獲物候補発見!』
 
  それは、僕が住んでいるこの人口5000人の町の名前だ。
 なお、木鹿毛と書いて「このかげ」と読む。外から来た人は、たいてい間違える。
 
  心臓が高鳴る。呼吸が速くなる。
 
 『この木鹿毛町(きしかげかな?)にて、超美少女姉妹発見! この町は綺麗な川と湖を持つ
 山あいの小さな町だ。 町民はきっとこの素晴らしい自然環境で健康的に育っていて、
 こいつらは特に純粋培養っぽくて、おいしそう!
 マンハンターさま、是非ともこいつらを喰って、そのシーンを僕らに見せてください!』
 
 『追記・・・この姉妹(本当に姉妹なの?)の情報求む、情報次第で謝礼出します。
 マンハンターさまの食べ残し写真のいいやつ、上げます』
 
 
  そこに女の子が写っている写真があった。
 そこに写っているのは 信じられないくらいに愛らしい姉妹。
 
  その1人はアルピノで、髪も肌も真っ白で・・・
 
  僕が幼い頃に見た、あの白樺の樹の妖精に、よく面影が似ていた。
 

 
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