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マンハンター ジャコウアゲハの夢

序文


 

 ウマノスズクサには薬効がある。
この薬効成分は、元は葉を虫の食害から守るためにあるもので、
根は陰干しにして、虫の毒等への解毒剤に利用され、
成熟した実は、咳止め剤として漢方薬に用いられる。


 しかし不思議なことに、この草の葉だけを食べて幼虫時代を過ごす、変わった食性を持つ蝶がいる。
その名をジャコウアゲハと言う。
大きく美しい翅を持つこの蝶は、標本のコレクターにも良く知られている蝶であり、
ジャコウの名の由来は、この蝶が麝香のような香りを放つところからきていると言われる。
 
 それにしてもなぜ、この蝶はウマノスズクサだけを狙って食べるのだろうか。

 その理由は、この蝶の幼虫が、ウマノスズクサの成分を逆手にとって生存競争に
利用することを思いついたからである。
ジャコウアゲハの幼虫は、その成分の効能を巧みに回避し、ウマノスズクサの成分を体内に蓄積する。
ウマノスズクサの成分は毒となって、この蝶と幼虫を喰らうものに打撃を与える。
一度でもジャコウアゲハを口にした捕食者は、その毒に懲りて二度とジャコウアゲハを
捕食しようとはしなくなるのだ。

 ジャコウアゲハは、ウマノスズクサを利用して勝利者となるはずだった。
だが、ウマノスズクサは、それを許さなかった。

 ジャコウアゲハの幼虫は、ウマノスズクサの成分の匂いで食欲を得る。
だから、ウマノスズクサだけを狙って食べる。
そして、ウマノスズクサの成分はジャコウアゲハ自身も持っている。

 だからジャコウアゲハの幼虫は、自分の同族にまで食欲を覚える。

 ジャコウアゲハは共食いをする。まるで、ウマノスズクサの怨念にでもあてられたみたいに、
兄弟の幼虫を喰らう。兄弟の卵を喰らう。

 共食いを続け、最後に残った1匹だけが生きていく。
もっとも罪を重ねたジャコウアゲハだけが生き残る。

 それは自然の摂理だと言える。
そうでもしないと、ウマノスズクサはすぐに食い尽くされてしまうのだ。
もともとウマノスズクサは、それほど繁殖力のある植物ではない。
それゆえの自然の巧妙なカラクリである。


 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
  
  詩
 
  題 ジャコウアゲハ
  
 
  毒の香りを放って飛ぶから
 
  重い罪過(ざいか)を背負って飛ぶから
 
  ジャコウアゲハは美しいのだ
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
  マンハンター ~ジャコウアゲハの夢~


 
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