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名探偵 縦溝(たてみぞ)の事件簿

第1話 ホテル編


 
 西暦2005年 春、東京の、とあるホテルで事件が発生した。

「熊楠警部! こちらです」

 若い警察官がベテラン警部の熊楠を呼ぶ。

「おお、榊原くん、それで現場はどうなっているんだい」

「はい、まずはこちらの部屋に来てください、鑑識の調査は終わってます。
とりあえず、すぐに調べられる情報はあらかた調べておきました」

「ふむ、準備がいいな」

 熊楠はゆったりとその巨体をホテルの一室へ・・・『関係者以外立入禁止』の札がついている
部屋へと入って行く。
 部屋の中は随分と荒らされていた。ベットの毛布やシーツはずれ落ち、あたりにはなんとも
言えない生臭い臭気が充満している。・・・この臭気だけでも、昨晩、この部屋で発生した惨事が
手に取るように分かるようであった。
   
「榊原くん、とりあえず、分かっていることを説明してチョーダイ」

 熊楠は少しお茶目に榊原に話しかけた。しかし、そのこわもての人相と比較しても余りに違和感が
あり、かえって怖いぐらいだ。

「はい、それでは現在、分かっている事を説明します」

 でも、榊原くんはここ数ヶ月でこの警部の違和感にも、すっかり慣れたらしかった。

「事件の発生は昨夜の午後11時30分頃、ホテルの従業員の鈴木トシヒコさんが異常な悲鳴を
聞きつけ不審に思い、部屋の戸をノックしたところ反応せず、あわてて支配人を呼んでドアを
マスターキーで開け、中に入ったところで今回の被害者とボクが見ている女性 小野亜里沙子
(20歳 ホステス)を見つけたとのことです」 
 
「ふむ、なるほど」

「無くなっていた物も無いようで、物取りの線は消えています。犯人はの身元は不明です」

「うーむ」

「また、従業員の話によれば、ここの窓ははめ殺しで、中から開けるには窓ガラスを割るしか
ないそうです。ドアは中から施錠され、マスターキー以外では開かないようになっていたようです」

「・・・ま、とりあえず密室なんだろ」

「そうですね、犯行は可能でも、現場から逃走するのは不可能です・・・」

 その時だった。ボサボサ頭を掻きつつ、不審な男がスッと部屋の中に現れた。

「警部、ご無沙汰です」

 その男を見つけた榊原くんは怪訝な顔をして、強引にボサボサ頭を追い出そうとする。

「なんだ? あんたは? ちょっとあんた! ここは立ち入り禁止だ! でてってくれ、捜査の
邪魔だ!」

「榊原くーん。彼はいいのよー」

 熊楠警部の野太いオカマ声が辺りに響いた。

「え? 警部、どういうことですか?」

「彼は かの名探偵 縦溝。数々の事件を解決してきた名探偵なの」

「え? そんな・・・こんなボサボサ頭が?」

「すみませんねー、名探偵。この若いのは不慣れだから・・・ま、多めに見てやってください」

「いえいえ、いいんですよ、それで警部、私を呼んだということは、やはり厄介な事件なんでしょう」

「ええ、そうです。じつはかくかくしかじか」

「分かりました・・・なるほど、そういうことですか。・・・この事件は既に解決していますよ、
警部さん」

「そ、そんな!」

 榊原くんが派手に驚く。

「まだ、現場に来て5分も経っていないのに!」

「ええ、そうです、しかし、全ての謎は解けました。・・・警部さん、これからこの事件の全貌を
説明します」

「犯人はまず、沙子さんをデートに誘い、ここのホテルのレストランで食事をしています。
これが午後9時ぐらいです。
 その後、2人は午後10時ごろ、部屋に入ります。
そして部屋に入った後、犯人の男は態度をいっぺんさせ、被害者に甘くささやきかけ、性行為を
せまります。そして2人は普通に性行為をしました」

「そうですね? おふたりさん」

 名探偵縦溝が部屋のある一点を見つめた。
 部屋の片隅には裸の男女が座っていた。
男のほうが不敵に笑う。

「くっくっくっ・・・さすがは名探偵だな・・・縦溝。 
まさかここまで簡単に私と彼女の浮気を見破られるとは、思っていなかったよ・・・
一体、いつ、真相に気が付いたのかね」

「・・・」

「いや、浮気調査で張ってたから、一部始終すべて録画して見てたし」

「・・・」

「さすがは名探偵 縦溝。私の負けだ、だが、次は、次の浮気こそ見破られんぞ! ふははは!」

「どうぞご自由に、依頼が増えるだけですし」

「・・・」


   第1話 完

 
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